もんし録

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『魔進戦隊キラメイジャー』はなぜ新しかったのか?(総括・考察)

キラメイジャーの総括・考察記事です。

 

まえがき

働き方改革」が注視されて数年。私が働いている企業でも働き方を変える動きが活発化しました。その一環で取り入れたれた施策が、「カエル会議」という制度。株式会社ワークライフバランスが考案した「自分たちがより良い働き方をするために何をすべきか」を考える会議です。部署でざっくばらんに労働環境の問題点やモチベーション向上方法を考えるのですが、その会議には一つのルールがありました。

それはどんな意見も否定しないことでした。 

キラメイジャーはなぜ新しかったのか

本題です。『魔進戦隊キラメイジャー』が完結しました。

初の令和戦隊というタイミングでありつつ、コロナ禍の試練を駆け抜けた1年間。

本当に楽しく、新たな戦隊像を鮮烈に見せてくれた作品でした。正直滅茶苦茶好きです。

本記事ではそんなキラメイジャーが提示してくれた新しい価値観、戦隊像をテーマに番組を総括したいと思います。

令和戦隊ならではのコンセプト

魔進戦隊キラメイジャーは「使命と自己実現の両立」を掲げた戦隊でした。この特徴は2話で提示された「使命を果たしながら、皆で支え合って個人個人の願いを叶える」方針の元、最後まで一貫して続いていきます。

一人一人が輝くための5人という考え方のため、「私用事あるから先行くね!」と戦いを途中で抜けるシーンが成立しました。個人の夢を投げ出して戦場へ向かった『侍戦隊シンケンジャー』のようなヒロイックさとは真逆で新しい価値観と言えるでしょう。

「公私を両立させた戦隊」と言い換えることができるかもしれません。

スーパー戦隊と公私

「ヒーローの公私」で言えば、ヒーローを扱った作品では結構あるあるなテーマです。

直近の先輩戦隊であるリュウソウジャー』『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』でも言及されています。

前者では、リュウソウカリバーを手にする試練で「使命か仲間か」を選択させ、コウとカナロが別々の回答をするという展開などがそれにあたります。後者で言えば、ルパンレンジャーはそもそも「個人の願い」を叶えるためのチームですし、クライマックスで魁利を助けるために「公共」機関である警察を辞める選択肢を挙げた圭一郎の場面はまさに「ヒーローの公私」をテーマにしたシーンでした。

そして、リュウソウジャーVSルパンレンジャーVSパトレンジャー』では、使命のために騎士竜の命を奪わなければならない選択を迫られるリュウソウジャーに、「個人の願い」を果たさせるべく、ルパパトが画策するドラマがありました。

ここにも勿論、「公私両立」の考え方があります。しかしキラメイジャーで扱われた「公私」はかつての戦隊とはレベルが異なります。話のレベルではなく「私(=自己の欲求)」の段階が異なるという意味合いです。

自己実現=輝いて生きること

その段階を説明するために心理学理論であるマズローの5段階欲求」を引用します。人間の欲求には下記の5階層あるという考え方です。

①生理的欲求(生命を維持したい)

②安全欲求(自分や家族の健康や安全を守りたい)

③社会的欲求(誰かと繋がりたい、コミュニティに所属したい)

④承認欲求(自分が集団から存在価値を認めてもらい尊重されたい)

自己実現欲求(自分の持つ可能性を最大限に発揮し、創造的活動をしたい)

①が最も優先度が高く基礎的な欲求とされます。これまでの戦隊が「公私」を天秤にかけるとき、主に「個人」的なの欲求に該当するのは「①生理的欲求」か「②安全欲求」、踏み込んでも「③社会的欲求」でした。

しかしキラメイジャーが「公」と共存を叶えようとするのは「⑤自己実現欲求」という最も高次元な欲求です。

ここにキラメイジャーの戦隊としての新しい在り方の提示があります。(ボウケンジャーのように使命と自己実現がリンクした戦隊は別として・・・)

そして、自己実現を果たすこと」は番組テーマである「輝いて生きること」の定義として位置づけられていました。

ちなみにキラメイジャーは①、②の欲求への触れ方も特徴的でした。

「特訓回」と「パワーアップ回」です。

どちらも新ロボ(キングエクスプレス)や新武器(キラフルゴーアロー)が登場する大事な販促回。ただしプレゼンされたのはイケイケな戦力強化ではなく、「誰でも自分の時間が必要」、「限界は超えないためにある」という、人が輝くためのストッパー的な考え方でした。

カナエマストーン・エネルギアの力で強引に強化を図ろう取るメンバーを充瑠が激昂して止める姿は印象的でしたね。

キラメイジャーが肯定したもの

そんな「使命と自己実現の両立」を掲げた戦隊像を成立させていたのは、「肯定」のスタンスでした。言い換えれば「輝くための欲求は肯定されるべき」という考え方です。

そもそもキラメイジャーの物語は魔進ファイアが充瑠を肯定したことから始まります。そして、キラメイレッドとなった充瑠はメンバーの「個人の願い」を肯定し、一人一人が輝くための戦隊像を打ち立てるのです。

彼が番組の中で肯定したものは、時雨のカッコつけや、5歳になった小夜の可能性、柿原さんのズルさ、少年の母のための作り笑顔、更にはクランチュラとの時間やガルザのクリエイティブまで多岐にわたります。

キラメキに繋がるものは何でも肯定する充瑠は誰かの「④承認欲求」(人が輝く前段階)を満たすことができるキャラクターとして表現されました。

更に、彼のスタンスがメンバーに伝播することで「輝く(自己実現を果たす)ためには肯定し、認めてくれる仲間が必要である」というテーマも現れます。

それが、ガルザに「輝くには一人の方が良い」という考えを刷り込まれた宝路との和解や、精神が入れ替わった魔進を褒めて勝利させる戦法につながっていくのです。

ヨドン皇帝はなぜ負けたか

「個人」を重視するキラメイジャーに対して、「ヨドン皇帝」のみを重視するヨドン軍。実はヨドン幹部たちにも人間と同じような欲求が存在していました。

純粋となったクランチュラは「⑤自己実現欲求」の人。ガルザは「④承認欲求」の人。ヨドンナは「④」と「③社会的欲求」の人。最終回ではヨドン皇帝ですら仲間が欲しい(③)、強い自分になりたい(⑤)という欲求を持っていたことが明らかになります。

それら全てが「弱さ」や「くだらないこと」として否定される中、唯一肯定されていたのはヨドン皇帝の強い自分で在りたいという自己実現欲求(⑤)です。

「変わる、変われる、変わりたい」を仮面に託して戦っていた点を見れば、充瑠と同質と言えるかもしれません。

しかし「輝くための仲間」の存在の有無が勝敗を分けます。自他含めて「個人の願い」を否定してきたヨドン皇帝は、それらを互いに肯定してきたキラメイジャーに敗北するのです。

まとめと「為朝が重要キャラだった理由」

「使命と自己実現の両立」の方針、その成立に必要なものを1年間通して描ききった『魔進戦隊キラメイジャー』。

現在、多くの人が課題として「輝いて生きること」に直面しています。「ワークライフバランス」や「働き方改革」、「副業」、「SNSなどの新たなコミニュティへの所属」もその課題に準ずるものです。

そのテーマを実現した姿を見せてくれた『キラメイジャー』は間違いなく、新時代の戦隊像でありヒーロー像でした。

本当に素晴らしいテーマとシリーズ構成であったと思います。

キラメイジャー最高!!

そして最後にこれだけは言いたい。

キラメイジャーようなチームは普通あり得ない綺麗事です。

そんなファンタジーな存在である彼らと現実世界の私たちをブリッジさせてくれたのは、為朝だったと思います。

現実主義である彼は最も充瑠との衝突が多いキャラクターとして描かれています。当初は「個人の願い」の肯定スタンスですら否定的なほどでした。しかしながら、物語が進むにつれて、為朝は充瑠が起こすファンタジー(≒綺麗事)を最も信じる人物となり、「キラメイジャー=充瑠」を肯定し続けます。

つまり、視聴者のファンタジーでも綺麗事を肯定したい気持ちを丸ごと肯定してくれるのが為朝というキャラクターなのです。

また、彼は5話のリーダーをやりたい本音(⑤自己実現欲求)を明かします。

しかし、彼はそれを”リーダーになること”ではなく自らのリーダー的能力である「的確な指示出し」や「作戦立案」の発揮で叶えていきます。

ここにはチームで”理想の何者か”になれなくても、好きなことを信じる力を発揮すれば、人は輝くことが出来るという「輝いて生きる」ためのヒントが一層具体的なレイヤーで示されているように思います。

「リーダー」という言葉を使ったヨドンナに一人立ち上がり激昂し、充瑠を称える為朝。

充瑠の生還に真っ先に駆け寄って抱き締める為朝。

本当に重要なキャラクターでした。ありがとう、キラメイイエロー!

 

ありがとうキラメイジャー!